双極性障害の家族への接し方|躁・うつ時の対応と再発を防ぐコツ

【はじめに】性格が変わってしまったと戸惑うご家族へ
「あんなに優しかった人が、急に怒りっぽくなった」「一日中布団から出てこない姿に、怠けているようでイライラしてしまう」
ご家族が双極性障害(かつての躁うつ病)と診断されたとき、一番近くにいるご家族はこのような戸惑いと疲労を感じていることが少なくありません。
まずお伝えしたいのは、その言動は本人の性格やわがままではなく、脳の病気による症状だということです。そして、ご家族がつらい、もう辞めたいと感じてしまうのも、決して薄情なことではなく、それだけ真剣に向き合ってきた証拠です。
双極性障害は、ご本人だけでなく、支えるご家族にとってもマラソンのような長い付き合いになります。この記事では、ご本人の回復を支えつつ、何よりご家族自身が共倒れせず、笑顔で過ごすための接し方と距離感について解説します。
双極性障害の家族を支えるための3つの基本姿勢
具体的な対応策を知る前に、まずはご家族が心に留めておいていただきたい3つの基本姿勢があります。この土台があるだけで、お互いのストレスは大きく軽減されます。
①性格ではなく脳の病気と割り切る
躁状態の時の攻撃的な言葉や、うつ状態の時のネガティブな発言を真に受けてしまうと、ご家族の心が持ちません。本人が言っているのではなく、脳内のバランスが崩れているせいで、病気が言わせているのだと、割り切ることが大切です。糖尿病の患者さんがインスリン不足で体調を崩すのと同じように、これは脳の機能的なトラブルであり、本人の人間性とは切り離して捉えましょう。
②治療は短距離走ではなくマラソン
早く治してあげたいと焦るあまり、ご家族が一生懸命になりすぎると、短期間で燃え尽きてしまいます。双極性障害は、波をコントロールしながら何年もかけて付き合っていく病気です。今日は調子が悪そうだけど、またそのうち晴れるだろうといった、良い意味での鈍感力を持ち、一喜一憂しない構えが長続きの秘訣です。
③本人のペースと家族のペースを分ける
最も避けたいのは、ご本人の気分の波に、ご家族まで同調して飲み込まれてしまうことです。あなたはあなた、私は私という境界線を意識し、ご家族はご家族自身の生活リズムや楽しみ(趣味や外出など)を大切にしてください。家族が安定して楽しそうにしている姿は、実はご本人にとって一番の安心材料になるのです。
【状態別】家族の接し方と対応のポイント
双極性障害には、躁状態、うつ状態、そして症状が落ち着いている寛解期という3つの時期があります。それぞれの時期で、求められる対応は全く異なります。
躁(そう)状態の時:刺激せず、現実的なブレーキを
気分が高揚し、万能感から高額な買い物をしたり、攻撃的になったりする時期です。
・議論や説得は避ける(NG行動)
矛盾を指摘したり言い返したりするのは火に油です。「あなたはそう思うんだね」と受け流し、否定も肯定もしない態度で接しましょう。
・現実的なブレーキ役になる
最も怖いのは社会的信用の失墜です。クレジットカードや通帳を預かる、起業や離婚などの重要な決断は先送りにさせるといった守りの対応に徹してください。
・入院も選択肢に
浪費や暴力など、家庭内での対応が困難な場合は、躊躇せず医師に相談してください。お互いの安全を守るために、一時的な入院が必要なケースも多々あります。
うつ状態の時:励まさず、見守る
エネルギーが枯渇し、深い絶望感に襲われる時期です。
・「頑張れ」「気晴らししよう」は禁句(NG行動)
良かれと思って旅行に誘ったり、励ましたりすることは、本人を期待に応えられないダメな自分と追い詰めることになります。骨折している人に走れと言うようなものです。
・静かに休ませる
今は充電期間と捉えて休ませます。ただし、「死にたい」というサインには敏感になり、緊急時はすぐに医療機関へ連絡してください。
寛解期(安定している時):油断せず、再発予防を
症状が治まっている時期こそ、再発予防の鍵を握ります。
・服薬の継続をサポートする
もう治ったから薬はいらないと自己判断でやめてしまうのが、再発の最大の原因です。再発を防ぐお守りとして飲み続けるよう促してください。
・生活リズム(特に睡眠)の維持
夜更かしや睡眠不足は、躁状態への引き金になります。「最近眠れてる?」という何気ない声かけが、再発のサインに気づく第一歩になります。
【実践編】こんな時どう言う?言葉のかけ方NGとOK
具体的に、どんな言葉をかければいいのと迷うご家族のために、よくある場面での会話例をご紹介します。
うつ状態で「自分はダメな人間だ」と嘆いている時
× NGワード
「そんなことないよ、もっと自信を持って」「みんな大変なんだから頑張ろう」
一般論での励ましは、本人の孤独感を深めます。
○ OKワード
「今は病気がそう思わせているだけだよ」「あなたは私にとって大切な存在だよ」
否定も肯定もせず、あなたのつらさは理解しているという共感と、存在を肯定するメッセージを伝えましょう。
躁状態で「すごいビジネスを思いついた!すぐ会社を辞める!」と興奮している時
× NGワード
「そんなの絶対無理に決まってる」「バカなこと言わないで!」
頭ごなしの否定は、敵対心を生み、行動をエスカレートさせます。
○ OKワード
「すごいアイデアだね。でも、大事なことだから一晩寝てから考えよう」「その計画、先生にも一度聞いてもらってからにしない?」
一旦は話を受け止めつつ、決定を先延ばしにすることや第三者(医師や支援者など)の意見を挟む方向に誘導するのがコツです。
早期発見がカギ!家族だから気づける再発のサイン
再発の直前には前兆(サイン)が現れます。同居のご家族だからこそ気づける小さな変化を見逃さないでください。
最も重要なサインは睡眠の変化
再発の最大のサインは睡眠リズムの乱れです。
躁状態の前兆
睡眠時間が短くても元気、夜遅くまで起きていることが増えた
うつ状態の前兆
朝なかなか起きられない、夜中に何度も目が覚める
ご家庭ごとのサインをリスト化しておく
症状が落ち着いている時に、ご本人と一緒に調子が悪くなる時のパターンを話し合っておきましょう。服装が派手になる、おしゃべりになる、部屋が散らかり始めるといった変化が見られたら受診を早めるルールを作っておくとスムーズです。
家族が抱えるQ&A:仕事・子供のこと
接し方だけでなく、現実的な生活の問題についての疑問にお答えします。
Q. 会社を辞めたいと言い出したら?
A. 全力で引き止め、休職を提案してください。うつ状態の自責感や、躁状態の万能感による退職判断は、正常ではありません。「今は大事なことを決める時期じゃない」と説得し、診断書をもらって休職することを強く勧めてください。退職は経済的な不安を招き、治療を長引かせます。
Q. 子供に親の病気をどう伝えるべき?
A. 年齢に合わせて、病気のせいであると伝えてください。子供は親の不調を自分が悪い子だからかな?と自分のせいにしてしまいがちです。「パパ(ママ)は、脳が疲れてしまう病気で休んでいるだけ。○○ちゃんのせいじゃないからね」と、病気であることと子供のせいではないことをはっきり伝えるだけで、子供の心は守られます。
家族が共倒れしないために大切なこと
看病疲れから、ご家族自身がうつ状態になってしまうケース(介護うつ)は珍しくありません。共倒れを防ぐために、以下のことを意識してください。
60点のサポートで十分と考える
100点満点の完璧なサポートを目指す必要はありません。食事はお惣菜でもいいですし、掃除が行き届かなくても死ぬことはありません。手抜きや息抜きも、長く支え続けるための立派な治療の一環です。「今日は疲れたから何もしない」と宣言する日があっても良いのです。
第三者(医師や支援者)を巻き込む
家族だから自分たちだけでなんとかしなきゃと抱え込むのは危険です。病気のことは医師や看護師に、生活の困りごとは地域の精神保健福祉センターなどに相談できます。受診の際に、ご家族だけで医師に相談する時間を作ることも可能です。チームで支える体制を作ることが、ご家族の心を守ります。
【まとめ】家族の笑顔を守るためにも、まずはご相談ください
双極性障害のご本人にとって、一番の薬は薬物療法ですが、二番目の薬はご家族が笑顔で安定していることだと言われています。ご家族が犠牲になって苦しい顔をしていると、ご本人は自分のせいで家族を不幸にしていると自分を責め、回復が遅れてしまうことがあります。
だからこそ、ご家族はご自身を大切にしてください。接し方に悩んだり、ご自身の心が疲れ切ってしまったりした時は、いつでも中原こころのクリニックへご相談ください。当クリニックでは、双極性障害をはじめとした気分の波の相談や治療に対応しております。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
