自閉スペクトラム症(ASD)

ASDの方が疲れやすい理由とは?うつ病を防ぐストレス対策

【はじめに】他の人と同じようにしているだけなのに、なぜか自分だけ異常に疲れてしまう

「会社から帰ると、ソファから一歩も動けない」 「休日は、人に会う気力も起きず、一日中寝て過ごしてしまう」 「飲み会やイベントに参加した後は、数日間ぐったりして何も手につかない」

周りの人と同じように学校や仕事に行き、同じように活動しているだけなのに、なぜか自分だけが異常に疲れてしまう。そんな感覚に、長年悩んでいませんか?

その疲れやすさは、決してあなたの体力がないからでも、怠けているからでもありません。ASD(自閉スペクトラム症)の生まれ持った脳の特性が、あなたが思う以上に、日々の生活で多くのエネルギーを消耗させているのかもしれないのです。

この記事では、その疲れの正体を、ASDの脳機能の特性から分かりやすく解説します。そして、その疲れが心のエネルギー切れ(うつ病などの二次障害)につながるのを防ぐための、具体的なストレス対策(セルフケア)をご紹介します。

 

ASD(自閉スペクトラム症)の方が「疲れやすい」4つの理由

ASDの方が感じる慢性的な疲れは、「気のせい」ではありません。多くの人とは異なる脳の情報処理の仕方によって、日常生活の様々な場面でエネルギーを過剰に消費してしまう、明確な理由があるのです。

理由1:感覚の特性(感覚過敏・鈍麻)による疲れ

ASDのある方の多くは、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)が非常に敏感です(感覚過敏)。多くの人の脳には、無意識のうちに不要な情報をカットする「感覚のフィルター」機能が備わっています。しかし、ASDの脳ではこのフィルターが弱い、あるいは機能しにくいことがあります。

そのため、オフィスでの蛍光灯の光、パソコンのファンの音、周りの人の話し声、様々な匂いといった、他の人には気にならない無数の刺激を、脳が常に情報として処理し続けてしまいます。これは、たくさんのアプリを同時にフル稼働させているパソコンのように、脳のCPUを常に100%に近い状態で使い続けることであり、膨大なエネルギーを消耗し、激しい疲れにつながるのです。

理由2:コミュニケーションにおける脳の「翻訳コスト」

定型発達の方が、相手の表情や声のトーン、身振り手振り、言葉の裏にあるニュアンス、その場の「空気」といった非言語的な情報を、半ば直感的に理解しているのに対し、ASDの脳は、それらを一つひとつ「知識」や「過去のデータ」と照合し、「こういう表情の時は、相手は怒っているのかもしれない」「こういう言い回しは、本心ではない可能性がある」と、論理的に「翻訳・推測」しながらコミュニケーションをとっています。

この無意識下で行われる膨大な「翻訳作業」は、外国語での会話を一日中続けるようなもので、脳に大きな負荷をかけ、コミュニケーションの後はぐったりと疲れてしまう原因となります。

理由3:こだわりとパターン思考による疲れ

ASDの脳は、決まった手順や自分なりのルール(パターン)で物事をこなすことを得意とし、それによって安心感を得ます。このパターン化は、普段は省エネで物事を進めるための優れた戦略です。しかし、ひとたび電車の遅延や急な予定変更、仕事での予期せぬトラブルといった想定外の出来事が起こると、脳は対応策を瞬時に見つけられず、エラーを起こしてパニック状態に陥ります。そして、その混乱した状態から冷静さを取り戻し、状況を立て直すために、非常に大きな精神的エネルギーを消耗してしまうのです。

理由4:過集中(ゾーン)とその後の虚脱感

ASDの特性の一つに、興味のあることや特定の作業に、驚異的な集中力を発揮する「過集中」があります。これは仕事などで大きな強みとなる一方、集中しすぎると休憩を取ることや食事、水分補給さえも忘れ、心身のエネルギー配分を無視して限界以上にのめり込んでしまいます。その結果、集中が切れた後には、まるでバッテリーが完全に空になったかのように、急激で激しい心身の消耗(虚脱状態)に襲われることがあります。

疲れがうつ病に変わる時(二次障害の危険性)

これまで見てきたような慢性的な疲れや、周囲との違いから生じるストレス状態が長く続くと、心と体のエネルギーは回復が追いつかず、完全に枯渇してしまいます。その結果、うつ病や不安障害、適応障害、パニック障害といった、別の精神疾患を併発してしまうことがあります。これを二次障害と呼びます。

ASDの特性による元々の「生きづらさ」に加えて、二次障害であるうつ病などが重なると、さらに自己肯定感が低下し、物事への意欲を失い、回復がより難しくなってしまうという悪循環に陥る危険性があります。だからこそ、二次障害を発症する前に、予防的なストレス対策(セルフケア)を行うことが何よりも重要なのです。

うつ病を防ぐためのストレス対策①:エネルギー管理術

疲れ切って動けなくなってしまう前に、ご自身の心と体を守るための具体的なエネルギー管理の方法をご紹介します。

自分の「バッテリー残量」を意識する

ご自身の心身のエネルギーを、スマートフォンのバッテリー残量に例えてみましょう。「今はまだ70%くらいあるな」「今日は人に会ったから、もう20%しかないな」というように、常に自分の「バッテリー残量」を意識する習慣をつけてみてください。客観視することで、無理をしすぎる前にブレーキをかけることができます。

「充電タイム」を意図的にスケジュールに組み込む

「疲れたから休む」のではなく、「疲れてしまう前に、計画的に休む」という発想の転換が非常に重要です。一人で静かに過ごす時間、趣味に没頭する時間などを「充電タイム」として、仕事の予定と同じくらい大切に、あらかじめ手帳やカレンダーに書き込んでしまいましょう。PCやスマホもオフにする時間を作ると、より効果的です。

刺激を減らす工夫

日常生活で感じる刺激の総量を、自分で減らす工夫も有効です。 感覚過敏に対して、通勤電車の中ではノイズキャンセリングイヤホンやサングラスを使う、職場の許可を得て光の刺激が少ない席に移動させてもらう、肌触りの良い服を選ぶなど、自分自身で環境を調整し、脳の無駄なエネルギー消費を防ぎましょう。

うつ病を防ぐためのストレス対策②:思考の整理術

ASDの特性と結びつきやすい、白黒思考や完璧主義といった「考え方の癖」が、知らず知らずのうちにストレスを増幅させていることがあります。

「~すべき」思考を手放す練習

「普通はこうすべきだ」「周りの人と同じようにできなければならない」といった考えは、自分を追い詰める大きな原因になります。まずは、「自分はそう考えがちだな」と、その癖に気づくことから始めましょう。

「書く」ことで客観視する

頭の中でモヤモヤしている不安や考えを、ただノートに書き出すだけでも、気持ちが整理され、客観的に見つめ直すことができます。慣れてきたら、認知行動療法(CBT)の「コラム法」などを参考に、自分の考えを客観的に分析し、別の視点を探す練習も有効です。

完璧ではなく「60点」を目指す

0点か100点かで物事を判断しがちな特性を自覚し、意識的に「まあ、これでいいか」「今日はここまでできれば十分」と、60点くらいで自分に合格点を出す練習をしてみましょう。完璧を目指さないことで、心はぐっと楽になります。

一人で抱え込まず、専門家やサポーターと繋がろう

ここまでセルフケアについて解説してきましたが、一人ですべてを完璧に行う必要はありません。むしろ、一人で頑張りすぎないことが、最も重要なセルフケアかもしれません。

主治医やカウンセラー、訪問看護師、地域の支援センターの職員など、あなたの特性を理解し、客観的なアドバイスをくれる「サポーター」を見つけましょう。定期的に自分の状態を報告し、困っていることを相談できる相手がいるというだけで、心の安定度は大きく変わります。

【まとめ】自分の「取扱説明書」を作り、疲れとうまく付き合おう

この記事では、ASDの方が「疲れやすい」理由と、その疲れがうつ病などの二次障害につながらないためのストレス対策について解説しました。

あなたの疲れやすさは、決して怠慢などではなく、あなたの脳が、他の人とは違うやり方で、毎日一生懸備に世界を処理している証拠です。

ここで紹介したセルフケアは、いわば、あなただけの脳の特性に合わせた「自分の取扱説明書」を作り上げていく作業です。「疲れる自分」を責めるのではなく、「疲れやすい自分」を深く理解し、その特性をいたわりながら、上手にマネジメントしていく。その新しい視点を持つことが大切です。

当クリニックでは、ASD(自閉スペクトラム症)の相談や治療に対応しております。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。