うつ病・うつ状態

うつ病の症状とは?精神症状や身体症状、治療方法について解説

なんだか最近、気分が晴れない日が続いている。以前は楽しめていた趣味に興味がわかない。夜は寝付けず、朝は体が鉛のように重い…。

こうした心身の不調に、「ただの気分の落ち込みだろう」と思いながらも、「もしかして『うつ病』では」と不安を抱えてはいないでしょうか。

心の不調は特別なことでも、意志が弱いからでもありません。しかし、それが一時的なものか、専門的なサポートが必要な「うつ状態」や「うつ病」なのか、ご自身で見極めるのはとても難しいと思います。

この記事では、うつ病・うつ状態の基本的な知識、症状、原因、そして一般的な治療法やご自身でできる工夫まで、分かりやすく解説します。ご自身のつらい気持ちを理解し、次の一歩を踏み出すヒントとしてお役立てください。

うつ病と「うつ状態」の違いとは?

「うつっぽい」「うつ気味」という言葉と、医学的な「うつ病」は厳密には異なります。この違いを正しく理解することが、ご自身の状態を知るための第一歩になります。

まず「うつ状態」とは、病名ではなく、気分が落ち込んでいる「状態」全般を指す言葉です。つらい出来事がきっかけの一時的な落ち込みも「うつ状態」と言え、誰にでも起こりうる心のエネルギーが低下した状態です。

一方の「うつ病」は、「うつ状態」がほとんど一日中、2週間以上続き、仕事や家事など日常生活に深刻な支障をきたす「病気」。脳内の神経伝達物質のバランスが崩れるといった機能的な不調が関係しており、意志の力だけで回復するのは困難で、専門的な治療が必要となります。

つまり、一時的な落ち込みも含む広い概念が「うつ状態」、その中で特に深刻で治療が必要なのが「うつ病」です。不調の「深さ」「期間」「日常生活への影響」で見極めることが大切です。

もしかして?うつ病・うつ状態の主な症状

うつ病のサインは心だけでなく、体や考え方にもあらわれます。ご自身の状態を振り返ってみましょう。

こころの症状

  • ほとんど一日中、気分が沈み憂うつな気持ちが続く。
  • これまで楽しめていたことに興味や喜びを感じられない(興味・喜びの喪失)。
  • 漠然とした不安や焦りがあり、落ち着かない。
  • ささいなことでイライラしたり、怒りっぽくなったりする。

からだの症状

  • 寝付けない、夜中や早朝に目が覚める、または寝すぎてしまう(睡眠障害)。
  • 食欲がない、または過食になるなど、食生活が変化する。
  • 十分に休んでも常に体がだるく、ひどい疲れを感じる(全身倦怠感)。
  • 頭痛、肩こり、動悸、めまい、胃の不快感などが続く。

考え方の変化

  • 注意力や集中力が落ち、仕事や家事の能率が低下する。
  • 「自分はダメな人間だ」「価値がない」など、自分を過度に卑下する。
  • 何事も自分のせいだと過剰に自分を責めてしまう(罪責感)。
  • 物事を悲観的に考え、将来に希望が持てない。
  • (重い症状として)消えてしまいたい、死について考えてしまう(希死念慮)。

うつ病には、上記とは少し違う特徴を持つタイプもあります。また、適応障害や双極性障害など、似た症状を持つ他の病気との判別も重要になるため、自己判断はせず、専門家へ相談することが不可欠です。

うつ病・うつ状態の原因となりうること

うつ病の原因は決して一つではありません。多くの場合、「環境要因」「性格傾向」「生物学的要因」が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

環境要因 身近な人との死別や離別、失業といった「つらい出来事」のほか、結婚や昇進などの「環境の大きな変化」、長時間労働などの「持続的なストレス」も環境要因です。
性格傾向
(気質)
真面目で責任感が強い、完璧主義、人に頼るのが苦手、といった傾向はストレスを溜め込みやすいです。これらは長所でもありますが、頑張りすぎることで心のエネルギーを消耗させることがあります。
生物学的要因 「気の持ちよう」ではなく、脳の機能的な不調が関係しており、気分や意欲を司るセロトニンなどの「神経伝達物質」の働きが乱れ、脳内の情報伝達が不調になることが一因と考えられています。

うつ病は「誰のせい」でもなく、様々な要因が重なった結果として誰にでも起こりうる病気なのです。

うつ病の主な治療法

うつ病は適切な治療で回復が可能です。治療は「休養」「環境調整」「精神療法」「薬物療法」の4つの柱を基本に進められます。

①十分な休養
治療で最も重要なのが「休養」です。うつ病は心と脳のエネルギーが枯渇した状態であり、まずはエネルギーを充電するために心身を休ませる必要があります。休むことは回復に不可欠な「治療の一環」です。

②環境調整
ストレスの原因から物理的・心理的に距離を置き、安心して休養できる環境を整えることです。例えば、休職制度の利用や、家事・育児の分担見直しなどが挙げられます。

③精神療法(カウンセリング
専門家との対話を通じて問題解決を目指す治療法です。ここでは特に有効性が科学的に示されている「認知行動療法(CBT)」について詳しく解説します。

認知行動療法(CBT)とは?

認知行動療法は、私たちの気分や行動が、ある出来事そのものではなく、その出来事をどう受け止めたか(認知)によって大きく影響される、という考えに基づいた治療法です。

例えば、「友人にLINEを送ったが返信がない」という【出来事】があったとします。この時、「嫌われたに違いない」という【認知】が瞬間的に浮かぶと、「不安で、悲しい」という【感情】になり、「何度もスマホをチェックする」という【行動】に繋がるかもしれません。 一方で、「忙しいのだろう」という【認知】ができれば、「穏やかな」【感情】でいられ、「後でまた連絡してみよう」という別の【行動】がとれます。

このように、つらい感情を引き起こしている「認知(考え方)」の癖に気づき、それをより現実的でバランスの取れたものに変えていくことで、心への負担を軽くしていくのが認知行動療法の基本的なアプローチです。

CBTで取り組むこと

実際のカウンセリングでは、以下のようなことに取り組みます。

1.考え方の癖に気づく(自動思考のモニタリング)

日常生活で気分が沈んだ時に、その瞬間に頭に浮かんだ考え(=自動思考)を記録する練習をします。うつ病の時には、物事を極端に悪く捉える「認知の歪み」と呼ばれるパターンが現れがちです。

  • 白黒思考:「少しでもミスをしたら、すべてが台無しだ」
  • 過度の一般化:「一度失敗したから、自分は何をやってもダメだ」
  • 心のフィルター: 良かったことは無視し、悪かった点ばかりを探してしまう。
  • 結論の飛躍: 根拠なく「きっと嫌われている」などと悪い結論を出す。

2.考えの幅を広げる

自動思考に気づいたら、それが本当に事実なのかを客観的に検証し、「他の考え方はできないか?」と別の視点や可能性を探す練習をします。

3.行動を少しずつ変える(行動活性化)

意欲が低下すると、以前は楽しめていた活動や人と会うことを避けるようになりがちです。それがさらに気分を落ち込ませる悪循環に繋がるため、「少しだけならできそう」と感じる行動(例:5分だけ散歩する、友人に短いメールを送る)を計画し、実行することで、気分の改善を図ります。

認知行動療法は、単に気分を楽にするだけでなく、自分自身でストレスに対処するスキルを身につけ、再発を予防することを大きな目的としています。

④ 薬物療法
つらい症状を和らげ、休養や精神療法に集中しやすくするための「サポーター」です。主に「抗うつ薬」が用いられ、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで気分を改善します。効果が出るまで数週間かかること、自己判断での中断は危険なため、医師の指示に従うことが重要です。副作用が気になる場合も、まずは主治医に相談しましょう。

回復を後押しする生活習慣のポイント

専門的な治療と合わせ、日々の生活習慣を見直すことも回復を後押しします。無理は禁物ですが、調子の良い時にできることから試してみましょう。

① 質の良い睡眠
うつ病と睡眠は密接に関係しています。毎日なるべく同じ時間に起き、朝に光を浴びて体内時計をリセットしたり、就寝前のスマホを控えたりして、睡眠の質を高めましょう。
② 適度な運動
心地よいと感じる程度の軽い運動は、気分を安定させ、良い気分転換になります。「5分の散歩」など、簡単なことから始めるのがおすすめです。
③ バランスの取れた食事
心身の健康の土台として、1日3食、多様な食材をバランス良く摂ることを意識しましょう。
④ 日光を浴びる
太陽の光は、気分を前向きにさせる脳内物質「セロトニン」の合成を促すと言われます。午前中に15分ほど、屋外の光を浴びる習慣が効果的です。

まとめ:つらい気持ちを抱え込まず、専門家へ相談を

うつ病は誰にでも起こりうる脳のエネルギーが欠乏した状態であり、適切な治療と工夫で回復できる病気です。

この記事を読んだあなたは、ご自身の心と向き合い、回復への大きな一歩を踏み出しています。しかし、そのつらい気持ちをこれ以上一人で抱え込む必要はありません。もし苦しさが続いているのなら、どうか勇気を出して専門家にご相談ください。

当クリニックでは、うつ病の相談や治療に対応しております。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。