睡眠障害とは?睡眠障害の原因、種類、症状、治療方法について解説します
「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚めてしまう」といった睡眠の悩みを抱えていませんか?
睡眠不足が続くと、集中力の低下や気分の落ち込みだけでなく、生活習慣病のリスクも高まります。
本記事では、身近でありながら見過ごされやすい「睡眠障害」の種類や原因、不眠症の治療法や日常生活での改善ポイントについてわかりやすく解説します。
睡眠障害とは
「睡眠障害」とは、睡眠の質や量に問題があり、日常生活に支障をきたす状態を指します。日本人の約20%が何らかの睡眠の悩みを抱えているともいわれ、決して珍しいものではありません。
睡眠障害は大きく5つに分類されます
内容 | |
不眠症 | 眠りたいのに眠れない |
過眠障害 | 十分な睡眠時間をとっても日中に強い眠気 |
ナルコレプシー | 突然眠気に襲われる発作的な眠り |
睡眠時随伴症(パラソムニア) | 寝言、夢遊病、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)など |
睡眠時無呼吸症候群(SAS) | 睡眠中に呼吸が止まることで睡眠の質が低下 |
このうち、最も多いのが「不眠症」です。次章では不眠症の具体的な症状や判断基準について詳しく解説していきます。
不眠症の症状と判断基準
不眠症とは、夜間の睡眠に問題があり、日中の生活にも支障が出ている状態を指します。単に「寝つきが悪い」だけでは不眠症とは限らず、以下のような条件が揃うことが診断の目安になります。
◆ 不眠症の診断基準(主に次の4点)
- 入眠困難(寝つくまでに30分以上かかる)
- 中途覚醒(夜中に何度も目が覚めてしまう)
- 早朝覚醒(朝早く目が覚めてしまい、再入眠できない)
- 熟眠障害(ぐっすり眠れた感じがしない)
これらの症状が週3回以上・1ヶ月以上続き、 さらに 日中に倦怠感、集中力の低下、イライラ、気分の落ち込みなどがみられる場合、医師による診断と治療の検討が必要です。
一時的な不眠と慢性不眠の違い
ストレスや環境の変化による一時的な不眠は、多くの人に起こり得る自然な反応です。旅行先で眠れない、仕事の緊張で寝つけないといった経験は誰にでもあります。
しかし、これらが長期間続いたり、生活や仕事に悪影響を出している場合は「慢性不眠症」の可能性が高くなります。慢性化することで、自力での改善が難しくなることもあるため、早めの対応が大切です。
主観的不眠と客観的不眠
本人は「眠れていない」と感じていても、実際にはある程度眠れているケースもあります。これは主観的不眠と呼ばれ、不眠に対する不安やこだわりが原因になっていることもあります。特に几帳面で責任感の強い方に多い傾向があります。
逆に、本人が睡眠に問題を感じていなくても、検査で睡眠の質の低下が見つかる客観的不眠も存在します。睡眠時無呼吸症候群などがこれに該当します。
不眠は「神経質だから」「性格のせい」と誤解されがちですが、誰にでも起こり得る医学的な問題です。放置せず、適切に対処することが重要です。
不眠が心身に与える影響
不眠は単なる「寝不足」ではありません。継続的に眠れない状態が続くことで、心と体にさまざまな悪影響を及ぼすことがわかっています。
心の健康への影響
慢性的な不眠は、うつ病や不安障害のリスクを高めることが、多くの研究で明らかになっています。実際、うつ病患者の約8割が不眠を併発しており、不眠が長引くことで感情のコントロールが難しくなるケースもあります。
また、睡眠不足はストレス耐性の低下やイライラを招き、家庭や職場での人間関係に悪影響を及ぼすこともあります。集中力や判断力が鈍ることで、自信の喪失や自己否定感の増大にもつながります。
体の健康への影響
不眠が続くと、自律神経やホルモンバランスが乱れ、高血圧、糖尿病、心疾患、肥満といった生活習慣病のリスクが高まります。特に、夜間の睡眠による回復が得られないと、慢性的な炎症状態が体内に続き、老化や免疫力の低下にもつながる可能性があります。
また、肌荒れや胃腸の不調など、見た目や日常の快適さにも影響を及ぼすことが多くあります。
社会的な影響
睡眠不足によって集中力や判断力が低下すると、仕事のミスや交通事故につながる危険性も。実際、睡眠不足による事故は飲酒運転と同程度のリスクがあるとされ、運輸業界では特に深刻な問題とされています。
学生にとっても、睡眠不足は記憶力や学習効率の低下を招くため、パフォーマンスの維持が難しくなります。
放置せず、早めの対処を
不眠は、長引くほど心身への影響が深刻になります。日中の活動に支障を感じたら、それは身体からのサインです。「ただの寝不足」と自己判断せず、早めに専門機関に相談することが大切です。
次章では、現在行われている不眠症の治療法についてご紹介します。
不眠症の治療法
不眠症の治療には、主に薬物療法と認知行動療法(CBT-I)の2つがあります。症状の程度や生活状況に応じて、これらを単独または併用することが一般的です。
薬物療法:つらい症状を一時的に和らげる
薬物療法は、不眠のつらさを短期間で軽減することができます。現在使われる薬には、以下のような種類があります:
- 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(例:ゾルピデム)
- メラトニン受容体作動薬(例:ラメルテオン)
- オレキシン受容体拮抗薬(例:スボレキサント)
- 抗うつ薬や抗不安薬の一部:不眠を伴ううつや不安に対応
これらは、それぞれ作用機序が異なり、医師が患者の状態に応じて選択します。副作用や依存性を避けるためにも、自己判断ではなく医師の管理下で使用することが大切です。
また、薬物療法は即効性がある一方で、根本的な解決には至らない場合もあります。そのため、薬のみに頼るのではなく、行動療法や生活習慣の見直しと併用することが望ましいとされています。
認知行動療法(CBT-I):根本的な改善を目指す
CBT-Iは、不眠の背後にある考え方や行動パターンを見直す心理療法です。睡眠薬に頼らずに、不眠を根本から改善する方法として注目されています。欧米では不眠症の第一選択とされ、日本でも対応する医療機関が増えてきています。
主な方法には下記のものがあります。
内容 | |
睡眠日誌の記録 | 自分の睡眠状況を把握し、改善点を見つける |
刺激制御法 | 眠くなってから布団に入る、眠れない時は一度離れる |
睡眠制限法 | ベッドにいる時間を絞り、睡眠効率を改善 |
リラクゼーション法 | 呼吸法や漸進的筋弛緩法などを用いた入眠補助 |
睡眠に関する誤解や不安を修正する認知再構成法 | 睡眠に関する非現実的な思考や不安を現実的で柔軟な考え方に修正し、眠りへの過度なこだわりを和らげる方法 |
CBT-Iは「我慢する療法」と誤解されがちですが、実際には無理のない範囲で段階的に行い、持続的な改善が見込めるのが特長です。医師や臨床心理士の指導のもとで実施されるほか、近年ではアプリやオンラインプログラムを活用したセルフ実施も注目されています。
症状が強い場合は、薬物療法で負担を軽減しながらCBT-Iを並行するケースも多く見られます。最近では、CBT-Iに対応する医療機関やオンラインプログラムも増えており、治療の選択肢が広がっています。治療は「眠れるようになること」だけでなく、「眠れない不安から解放されること」にもつながります。
次章では、生活習慣の見直しによって自分でできる改善方法をご紹介します。
睡眠に良い生活習慣
治療と並行して、日々の生活習慣を整えること(睡眠衛生の改善)も重要です。睡眠に悪影響を与える行動を減らし、良い習慣を身につけることで、不眠症の改善につながります。
避けたい習慣
避けたい習慣 | 内容 |
就寝直前までスマホやパソコンを使用 | ブルーライトが脳を刺激し、眠気を妨げます |
夕方以降のカフェイン摂取 (コーヒー・紅茶・緑茶・エナジードリンク) |
カフェインが睡眠に悪影響を与える |
寝酒の習慣 | 一時的に寝つけても、睡眠の質を下げてしまいます |
寝だめや週末の長時間睡眠 | 体内時計を乱す原因になります |
今夜からできる良い習慣
睡眠に良い習慣 | 内容 |
毎朝同じ時間に起きる (平日も休日も) |
体内時計が整い、自然に眠くなるリズムが作られる |
ぬるめの入浴でリラックスする (就寝1~2時間前) |
深部体温が下がり、眠気が促される |
ベッドは"眠るため"だけに使う (寝ながらのスマホは避ける) |
脳が「ベッド=睡眠」と学習し、入眠しやすくなる |
軽い運動を日中に取り入れる (ストレッチや散歩など) |
適度な疲労で夜に自然な眠気が生じる |
眠くなってから布団に入る (無理に早く寝ようとしない) |
寝つきが良くなり、「寝なきゃ」というプレッシャーが減る |
加えて、寝室環境の調整も有効です。室温は20〜22℃、湿度は50〜60%程度が理想。照明は暗めで暖色系にし、騒音が気になる場合は耳栓やホワイトノイズを活用するのもおすすめです。寝具やパジャマの肌ざわりにも気を配ると、より快適な睡眠が得られます。
すべてを完璧にこなす必要はありません。まずは「できることを1つだけ」から始めることが、不眠改善の第一歩です。生活習慣の積み重ねが、質の高い眠りを支えます。
まとめ
「眠れない」という悩みは、決して特別なことではありません。不眠症は誰にでも起こり得る身近な問題であり、心身の健康や日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
一時的な寝不足と思って見過ごしてしまうと、慢性化し、うつ病や生活習慣病といった深刻な問題につながることもあります。だからこそ、早めの気づきと対応が大切です。
本記事では、不眠症の症状、原因、治療法、生活習慣の改善についてご紹介しました。ご自身に当てはまる項目があれば、無理に我慢せず、医療機関への相談を検討してみてください。
睡眠は、心と体を回復させる大切な時間です。質の高い睡眠を手に入れることで、日々の暮らしが前向きに変わっていくかもしれません。
当クリニックでは、不眠症をはじめとする睡眠障害の相談や治療に対応しております。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。