統合失調症の家族への接し方と対応|言ってはいけない言葉と距離感

【はじめに】良かれと思った言葉が逆効果?ご家族の疲労に寄り添うために
誰かに狙われているなど現実にはないことを訴える姿に、毎日腫れ物に触るように接して心が休まらない。優しく接したいのに、話が通じないことにイライラし、また怒ってしまったとご自身を責めては、昔の元気だった頃の姿を思い出して悲しくなる……。そんな深く、行き場のない疲労を抱えるご家族は決してあなただけではありません。
統合失調症は、ご本人だけでなく、支えるご家族にとっても心身のエネルギーを激しく消耗する病気です。良かれと思った励ましや言葉が、病気の特性上、かえってご本人を頑なにさせてしまうことも少なくありません。
この記事では、中原こころのクリニックの専門医の視点から、言ってはいけないNGな対応を避け、ご本人の安心を引き出す正しい会話術と、ご家族自身が共倒れしないための適切な距離感について具体的に解説します。
統合失調症の家族に対する接し方・3つの基本姿勢
具体的な声かけの前に、まずは心に留めておいていただきたい3つの基本姿勢があります。この前提を理解するだけで、ご家族の肩の荷がスッと軽くなるはずです。
1. 性格の変化ではなく脳の病気だと割り切る
発症後に急に怒りっぽくなったり、逆に一日中引きこもって無気力になったりすることがありますが、これは決して本人のわがままや甘えではありません。脳内の神経伝達物質のバランスが崩れたことによって起きる症状そのものです。本人が悪いのではなく、脳の病気がそうさせているのだと割り切る視点が、ご家族のストレスを減らす第一歩です。
2. 家族自身が感情的にならない穏やかな環境づくり
ご家族が本人に対して声を荒げて批判したり、過剰に干渉したり、感情的に泣き崩れたりする環境(専門用語で高EEと呼びます)は、本人の脳にとって強烈なストレスとなります。医学的な研究でも、ご家族が感情的になる環境は再発率を何倍も高めてしまうことが分かっています。ご本人の突拍子もない発言に振り回されそうになっても、ご家族はできるだけ一定のトーンで穏やかに接することを心がけてください。
3. 本人に病気であるという認識がないことを理解する
統合失調症の大きな特徴として、病識(自分が病気であるという認識)の欠如があります。ご本人にとって幻聴や妄想は、今まさに起きている現実です。なぜ自分が病気だと分からないのかと責めるのは意味がなく、病気だと自覚できないこと自体が症状の一つなのだと、ご家族側が深く理解しておく必要があります。
要注意!統合失調症の家族に言ってはいけない言葉とNGな対応
ご本人のためを思っての行動でも、幻覚や妄想が激しい時期には逆効果になってしまう対応があります。以下の3つに注意してください。
幻覚や妄想を真っ向から否定する
◯NGな言葉
「誰もいないよ!」「そんなの気のせいだ」
ご本人にとって幻聴や妄想は100%の現実です。真っ向から否定されることは、健常な私たちが空は赤色だと無理やり押し付けられるような強い混乱を生みます。ご本人は、家族は自分の危機を分かってくれない、敵の仲間かもしれないと感じ、心を閉ざして孤立を深めてしまいます。
無理に話を合わせすぎる・過度な肯定
◯NGな言葉
「本当だ、あそこに誰かいるね」
否定がいけないからと、過度に肯定することも危険です。家族が妄想に同調してしまうと、ご本人の頭の中で妄想がさらに強固に強化されてしまいます。また、後から話を合わせていたと分かった時に、家族への致命的な不信感につながるため注意が必要です。
プレッシャーをかける励ましや焦らせる言葉
◯NGな言葉
「頑張って!」「いつ仕事に復帰できそう?」
急性期を過ぎて無気力になる時期に、回復を急ぐご家族がよく口にしてしまう言葉です。この時期のご本人の脳は、エネルギーが枯渇したガス欠状態であり、傷ついた脳を治すための休息期間でもあります。そこへプレッシャーをかけることは、脳に過度な負担をかけ、せっかく良くなりかけていた症状を再び悪化させてしまいます。
幻覚や妄想がある時の正しい対応と会話術
では、どのように声をかければよいのでしょうか。答えは事実の真偽には触れず、感情に寄り添うことです。
事実ではなく本人の不安や恐怖の感情に共感する
ご本人が「隣の人に監視されている!」と訴えてきたら、以下のように返答します。
◯正しい声かけ
「私には見えないけれど、あなたにはそう見えていて、とても怖い思いをしているんだね」
監視されているという事実には同意せず、怯えているという感情はしっかりと受け止めます。これにより、ご本人は家族が自分の味方だと感じ、深い安心感を得ることができます。
無理に説得せず別の安全な話題に切り替える
妄想の話がエスカレートしそうな時は、論理的な説得は通用しません。相槌を打ちつつ、自然な形で話題をそらすテクニックを使います。
◯正しい対応
「そうなんだね。あ、そういえば今日美味しいお菓子があるんだけど、一緒にお茶でもどう?」
無理やり話を打ち切るのではなく、本人の五感に働きかける別の安心できる刺激を提案することで、一時的に脳の興奮状態をクールダウンさせることができます。
病院に行きたがらない時の上手な受診の促し方
病識がないため、病院に行くのを断固として拒否されるという場合は、ご本人も自覚していて困っている身体的な不調を入り口にするのがコツです。
精神科ではなく身体の不調を理由にする
◯上手な誘い方
「最近よく眠れていないみたいだから、お医者さんで睡眠の薬をもらってみない?」
「食欲がないみたいで心配だから、内科も診てくれるクリニックに行ってみよう」
精神科への抵抗感が強い場合は、かかりつけの内科医に事前に事情を相談し、そこから専門医を紹介してもらうルートも有効です。どうしても本人が動かない場合は、まずはご家族だけでクリニックにご相談にいらしてください。医師やスタッフが状況を伺い、医療につなぐための具体的な作戦を一緒に立てることができます。
家族が共倒れしないための適切な距離感と公的支援
治療は数年単位の長期戦になることが少なくありません。ご本人の回復と同じくらい重要なのが、ご家族が心身の健康を保つことです。
家族だけで治そうと抱え込まない
24時間付きっきりで気を張っていては、ご家族の心が先に折れてしまいます。休日は自分の趣味の時間を楽しむなど、意識して病気から離れる時間を作ってください。ご家族がリラックスして笑顔で過ごしている姿を見る方が、ご本人にとっても一番の安心感につながります。
主治医や保健所、家族会など第三者を頼る
家庭内で問題が起きた時は、必ず第三者を頼ってください。受診の際、言いにくい困りごとは事前にクリニックにメモで伝えておいても構いません。また、同じ悩みを持つ家族会に参加することも、具体的な対処法を先輩家族から聞けるため強くお勧めします。
経済的な不安を和らげる自立支援医療などの制度
治療が長引く経済的な不安を和らげるため、以下のような公的支援制度が整っています。
| 自立支援医療 | 通院医療費や薬代の自己負担が原則1割に軽減される制度。 |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 税金の控除や公共交通機関の割引などが受けられる。 |
| 障害年金 | 生活や仕事に制限を受ける場合、年金が支給される可能性がある。 |
これらの制度の利用には申請が必要です。中原こころのクリニックでも、スタッフが制度のご案内や診断書の作成をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
【まとめ】ご家族自身の心と体の健康を最優先に
統合失調症は先の見えない不安に押しつぶされそうになる病気ですが、お薬の進歩により、適切な治療と環境が整えば、穏やかな生活を取り戻すことは十分に可能です。
ご本人の回復を支える一番の特効薬は、一番身近にいるご家族の健康と笑顔です。どうか完璧な家族になろうとしないでください。一人で抱え込まず、つらい時は私たち医療機関にその重荷を少し預けてください。
中原こころのクリニックでは、ご本人への治療はもちろん、ご家族からのご相談にも専門的な視点からしっかり寄り添い、サポートいたします。どう接していいか分からないというご相談だけでも構いません。いつでもお気軽にお越しください。
