その物忘れは若年性認知症?働き盛りの初期症状とうつ病との違い

【はじめに】働き盛りの「あれ、おかしいな?」は放置しないで
仕事でこれまでしなかったようなミスが続く。同僚の名前が出てこない。やる気が起きず、新しいことが覚えられない。
40代や50代の働き盛りの時期にこうした変化を感じると、多くの方は疲れがたまっているせいだ、あるいはうつ病かもしれないと考えます。責任ある世代だからこそ、少しの不調は気合で乗り切ろうとしてしまいがちです。
しかし、その不調の裏には、若年性認知症という脳の病気が隠れている可能性があります。まだ若いから認知症なんてありえないという思い込みが、発見を遅らせてしまう最大の要因です。
若年性認知症は、高齢者の認知症とは異なり、仕事や家計、子育てや親の介護など、生活への影響が甚大です。だからこそ、早期発見が何よりも重要になります。早く気づくことができれば、仕事を守るための準備や、経済的な支援を受けるための対策を立てることができるからです。
この記事では、働き盛りを襲う若年性認知症の初期症状や、うつ病との見分け方、そして万が一診断された場合に生活を守るための具体的な支援制度について解説します。違和感を放置せず、将来の安心のために正しい知識を確認していきましょう。
若年性認知症とは?65歳未満で発症する脳の病気
一般的に認知症は高齢者の病気と思われがちですが、現役世代でも発症することがあります。まずは、この病気の基本的な特徴について解説します。
高齢者の認知症との違いと進行の速さ
若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症の総称です。18歳から64歳まで幅広い年代で発症する可能性がありますが、特に50代での発症が多く見られます。全国で約3万5千人以上の患者さんがいると推計されています。
高齢者の認知症との大きな違いは、身体が元気であること、そして進行が比較的速い傾向があることです。脳の萎縮や機能低下のスピードが速く、気づいた時には症状がある程度進んでしまっているケースも少なくありません。また、働き盛りで家庭の大黒柱であることが多いため、病気による退職や収入減が直ちに家族の生活困窮につながってしまうという、深刻な社会的課題を抱えています。
主な原因はアルツハイマー型と血管性認知症
若年性認知症の原因となる病気は多岐にわたりますが、最も多いのは高齢者と同様にアルツハイマー型認知症です。脳内に溜まった異常なタンパク質が神経細胞を破壊し、記憶障害などを引き起こします。
次に多いのが、脳梗塞や脳出血などの後に起こる脳血管性認知症です。現役世代は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を抱えている人が多く、これらが動脈硬化を進行させ、脳血管障害のリスクを高めることが背景にあります。その他、交通事故などによる頭部外傷の後遺症や、アルコール多飲が原因となるアルコール性認知症、前頭側頭型認知症などが続きます。
ただの疲れ?うつ病?間違いやすい初期症状の違い
若年性認知症の発見が遅れる最大の理由は、その初期症状がうつ病や更年期障害、単なるストレス反応と非常によく似ているためです。
ストレスや更年期障害と誤診されやすい理由
発症初期には、気分の落ち込み、意欲の低下、不安感、イライラといった精神的な症状が目立つことが多くあります。この世代は、職場での責任の重さや家庭内の問題など、ストレス要因が重なる時期でもあります。そのため、本人も周囲も仕事のストレスで疲れているだけだ、更年期のせいだと思い込んでしまうのです。
実際に、最初はうつ病と診断されて治療を受けていたものの、薬の効果が出ず、詳しく検査をしたら認知症だったというケースは珍しくありません。精神科や心療内科を受診しても、若年性認知症を専門としていない医師の場合、初期の微妙な変化を見抜くのが難しいこともあります。
うつ病による物忘れと認知症による物忘れ
では、うつ病と認知症はどう見分ければよいのでしょうか。一つの目安となるのが、物忘れに対する本人の態度です。
うつ病による物忘れは、注意力が低下して頭に入らないために起こります。本人は忘れてしまったことに対して強く悩み、自分はダメだと悲観的に捉える傾向があります。検査をすると、時間はかかっても答えられることが多いのも特徴です。
一方、認知症による物忘れは、記憶そのものが抜け落ちています。しかし、本人は忘れたという自覚が薄い、あるいは忘れたことを取り繕おうとする傾向があります。仕事でミスを指摘されても、誰かが勝手にやったなどと人のせいにしたり、深刻さがなくなんとかなると楽観的であったりする場合も、認知症の疑いがあります。
早期発見のための若年性認知症セルフチェック
自分や家族の様子がおかしいと感じたら、以下のポイントをチェックしてみてください。単なる老化や疲れでは説明がつかない変化があれば、要注意です。
仕事や家事でのミス・段取りの悪さ
最も変化が現れやすいのが、複雑な処理を必要とする仕事や家事の場面です。
・慣れているはずの仕事で同じミスを繰り返す
・複数の業務を同時にこなせず、パニックになる
・報告、連絡、相談ができなくなる
・取引先との約束やすっぽかす、日時を間違える
・料理のレパートリーが極端に減る、味付けが変わる
・ATMの操作や駅の券売機の使い方がわからなくなる
これらは実行機能障害と呼ばれ、物事の段取りを立てて効率よく行う能力が低下しているサインです。
性格の変化や行動の異常
記憶障害よりも先に、性格や行動の変化が現れるタイプもあります。特に前頭側頭型認知症では顕著です。
・穏やかだった人が急に怒りっぽくなる、暴言を吐く
・店の商品を精算せずに持ち帰る(万引き)、信号無視をするなど、社会的なルールを守れなくなる
・同じ行動やコースを執拗に繰り返す
・身だしなみに無頓着になり、お風呂に入らなくなる
・浪費が増えたり、高額な商品を衝動買いしたりする
これらは本人の性格が変わったのではなく、脳の前頭葉という理性を司る部分がダメージを受けているための症状です。
診断されたら仕事やお金はどうなる?生活を守る公的支援
もし若年性認知症と診断されたら、これからの生活はどうなるのか。これが最大の不安でしょう。しかし、診断は人生の終わりではありません。様々な支援制度があなたを守ってくれます。
すぐに退職はNG!休職や配置転換の検討を
診断を受けてショックを受け、迷惑をかけるからとすぐに退職を申し出てしまう方がいますが、これは避けてください。一度退職してしまうと、傷病手当金などの経済的な支援を受けられなくなる可能性があるからです。
まずは会社の産業医や人事担当者に相談し、休職制度を利用して治療や療養に専念する時間を確保しましょう。復職する場合も、以前と同じ業務ではなく、負担の少ない部署への配置転換や、短時間勤務などを検討してもらえる可能性があります。会社側も、どう対応していいかわからないだけの場合が多いので、専門家を交えて話し合うことが大切です。
傷病手当金や障害年金など、経済面を支える制度
働けなくなった場合の収入減を補うための公的制度があります。
| 傷病手当金 | 病気で会社を休んだ場合、最長で1年6ヶ月の間、給与の約3分の2が健康保険から支給されます。 |
| 障害年金 | 初診日に加入していた年金制度(国民年金または厚生年金)から、障害の程度に応じて年金が支給されます。若年性認知症は受給対象となるケースが多いです。 |
| 自立支援医療制度 | 通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。 |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 税金の控除や公共交通機関の割引などが受けられます。 |
| 住宅ローン | 住宅ローンを組んでいる場合、高度障害状態と認定されれば、団体信用生命保険(団信)によってローンの残債がゼロになる可能性があります。契約内容をすぐに確認しましょう。 |
どこに相談すればいい?受診する診療科と相談窓口
一人で悩まず、まずは専門家につながることが解決への第一歩です。
精神科・脳神経内科・物忘れ外来の受診を
受診先としては、精神科、心療内科、脳神経内科、脳神経外科などが挙げられます。最近では物忘れ外来や認知症外来といった専門外来を設けている病院も増えています。かかりつけ医がいる場合は、まずそこで相談し、専門医を紹介してもらうのも良い方法です。受診の際は、いつ頃から、どのような変化があったかをメモにまとめて持参すると、診断の助けになります。
「若年性認知症支援コーディネーター」の活用
各都道府県には、若年性認知症支援コーディネーターという専門職が配置されています。医療、介護、就労、経済的な問題など、若年性認知症に関するあらゆる相談に無料で応じ、適切な支援機関につないでくれる心強い存在です。どこに相談していいかわからない時は、お住まいの自治体の地域包括支援センターや、認知症疾患医療センターに問い合わせて、コーディネーターを紹介してもらいましょう。
【まとめ】一人で抱え込まず、早めに専門医へ相談を
若年性認知症は、ご本人にとってもご家族にとっても、受け入れることが非常に辛い病気です。しかし、発見が早ければ早いほど、利用できる制度の選択肢が増え、これからの人生設計を立て直す時間を作ることができます。
物忘れや不調を感じていても、もし認知症だったらどうしようと怖くて受診できない気持ちは痛いほど分かります。ですが、その不調は治療可能な別の病気かもしれません。まずは、うつ病かもしれないという相談でも構いません。専門医のドアを叩いてみてください。
当クリニックでは、認知症、軽度認知障害(MCI)の相談や治療に対応しております。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
